隣の芝生はなんとやら
「わたし仕事辞めようと思うんです」
ある日のランチ中、後輩が席について注文を終えるなりそう放った。
「どうして…また急に…」
彼女は違う店舗で働いていて接客や事務的な作業も申し分なくテキパキ働いていて評価も高かった。
「なんかー、人間関係もうまくいかないし、
新卒で入社してわからないことだらけなのに教えてもくれない!営業もノルマあってしんどい!給与もやっすいし!やってらんないんです」
そう言って確か去年も2人辞めていったな。
「仕事は決まったの?」と聞くと
「ぜんぜん!辞めてから考えます!」と大抵返ってくる。
のも、目に見えていた。
「んーー、でも3年でしょ?うちの会社割と休み申請すぐ通るし、もったいなくない?転勤希望出したら変わるかもよ?〇〇さんも別店舗に行ってから続いてるし…」
咄嗟に思いついたありきたりな止めセリフを彼女に投げかけた。
「えーーなんかもういいです!3年頑張ったし!
友達が事務系の会社行ってよさげなんでー、わたしもそっちにいこかなーって!
でも、先輩には愚痴とか聞いてもらってたんで言っとかなきゃ思って!」
長い髪の毛を手櫛で軽く整えながら彼女はあっけらかんと言い放った。
そうして彼女は去年の春に去っていった。
人づてに聞いたが、彼女は職を転々としているらしい。
簡単なデータ入力の仕事にいけば単調でつまらない。
給与が高けりゃ残業がしんどい。
小企業にいけば飲み会がめんどくさい。
「となりの芝生はなんとやら…ね」
この仕事も今の彼女には青く眩しく見えるのだろうか。